投資銀行の実務でAIに入力してよい情報・いけない情報

投資銀行・証券会社・M&A仲介・FAの実務で日々扱う情報を、生成AIに入力してよいかどうか、情報の種類ごとに整理しました。研修で示している基本方針と同じ立場で書いています。会社ごとの決まりは、社内の指針・情報管理規程・インサイダー取引管理規則が優先します。法務助言ではありません。

ここでいう「入れてよい」は、会社が契約条件とデータの扱いを確かめて承認した、法人向けの生成AIに入れる場合に限ります。個人で契約した生成AIは、有料・無料を問わず、業務には一切使いません。

情報の種類ごとの一覧

情報の種類承認済みのAIへの入力考え方
公開情報
有価証券報告書、決算短信、適時開示、IR資料、ニュース、株価
入れてよい誰でも見られる情報です。出力に出てくる数字は、元の資料と照合してから使います。
自社で作った通常の業務資料
分析メモ、財務モデルの下書き、社内向けの説明資料
入れてよい社名や数字を伏せずにファイルごと入れて差し支えありません。伏せても数字や事業内容から会社は推測できることが多く、伏せる手間に見合う効果は大きくないと考えています。
業務上の個人情報
取引先担当者の氏名・連絡先、面談の相手
入れてよい会社のクラウドに保管するのと同じ扱いで考えます。別のAIサービスに上げるときは、そのサービスも会社が承認している必要があります。
顧客から受領した資料
データルームの資料、事業計画書、月次の管理資料、相手方の契約書ドラフト
契約と指示による秘密保持契約と相手方の指示に従います。生成AIの利用を禁止・制限する定めがあれば入れません。定めがない場合の扱いは、会社が指針であらかじめ一つに決めておきます。
未公表の案件情報
M&A・ファイナンス案件の存在、当事者、条件、スケジュール
条件付き指針が可としている場合に、案件メンバーだけがアクセスできる場所で使います。部署全体の共有スペースや、社内AI検索の対象になる場所には置きません。未公表の重要事実は、インサイダー取引管理規則が優先します。
ワーキンググループリスト・チームリスト
案件関係者の氏名・所属・連絡先の一覧
入れない案件名・関係する会社・担当者が一枚に並び、それだけで未公表の案件の存在と当事者が分かります。要約や整理を頼む目的でも入れません。
閲覧者が指定された資料
「社外アドバイザー限り」「特定の人限り」とされた資料
入れない社内のAIでも、AI検索やファイル共有を通じて指定外の人に見える可能性があります。指定の範囲で人が扱います。
情報隔壁の向こう側の情報
自分が担当していない案件、他部署の資料
入れない・見ない自分の案件でない情報は使いません。AIの答えに出てきたときは、内容を使わず、すぐに情報システム部門などに知らせます。
認証情報・マイナンバー・カード番号・要配慮個人情報
パスワード、暗証番号、APIキー、認証コード、マイナンバー、クレジットカード番号、病歴
絶対に入れない承認済みのAIを含め、どのAIにも入れません。スクリーンショットやエラー画面への写り込みも同じです。

場面ごとの考え方

企業概要書・ティーザー・ピッチブックの下書き

公開情報と自社の分析資料から下書きを作るのは、承認済みのAIで差し支えありません。

顧客から預かったデータルームの資料を元にするときは、秘密保持契約と相手方の指示に従います。ワーキンググループリストは、資料の一覧として手元にあっても、AIには入れません。

出力に含まれる数字・固有名詞・契約条件は、元の資料と人が突き合わせてから使います。

財務モデル・バリュエーションの検算

AIは文脈からもっともらしい続きを確率的に組み立てる仕組みのため、計算のように答えが一つに決まる作業でも、いつも同じ正しい答えを出すとは限りません。

検算は、元の資料との照合を人が行うか、一定の前提の下で決定論的に答えが決まる専門サービスで行ったうえで、担当者が確認します。

契約書(秘密保持契約・株式譲渡契約など)の読み込み

自社がひな型として持っている契約書や、公開されている契約条項を読ませるのは差し支えありません。

相手方から受領したドラフトは、顧客から受領した資料と同じ扱いです。秘密保持契約にAI利用の制限があれば、その契約の対象となる資料にも及びます。

条項の意味がはっきりしないときは、入力する前に上長・コンプライアンス担当に確認します。

実社名の入ったメール・議事録の下書き

承認済みのAIであれば、実社名の入ったメールや議事録の下書きを頼んで差し支えありません。相手が未公表の案件の当事者である場合は、案件メンバーだけがアクセスできる場所で使います。

送る前に、固有名詞と数字を人が確かめます。宛先の個人情報は、会社のクラウドと同じ扱いです。

社内のAIに、担当外の案件が出てきたとき

見てしまった内容は使わず、すぐに知らせます。共有範囲の設定が原因であることが多く、放置すると同じことが他の人にも起きます。

入れてはいけない情報を、誤って入力したとき

隠さず、すぐに上長と情報システム部門・コンプライアンス担当に知らせます。承認済みのサービスであれば、会社の管理者が履歴の削除や影響範囲の確認をできることが多く、早く知らせるほど対応の選択肢が残ります。

社内の指針に落とすには

  • 承認済みサービスの一覧、顧客から受領した資料の扱い(秘密保持契約に定めがない場合を含む)、未公表の案件情報を置く場所の3点を先に決めます。
  • 条文形式のひな型は生成AI利用指針のひな型に、判断に迷う場面の考え方はよくある質問にあります。
  • 証券・投資銀行業務の研修(4択20問+自由記述2問)は、最初の10問を登録なしで解けます。